(合作)舞台-原作 対応一覧 1幕
!!!ネタバレ注意!!!
[1-1-1]=[第1部1章1節]
【1815年、ツーロン徒刑場】
♪囚人の歌
◯舞台と原作の違い
・妹か姉か[1-2-6]
日本舞台では「妹の子」と歌っている。なお英語歌詞ではsister's child なので、姉とも妹とも取れる。
原作では「姉の子」を飢えから救おうとしてパンを盗んだ。フランス語も姉と妹で同じ単語だが、文脈的に妹とは読めない。
バルジャンの両親は早く亡くなり、その歳の離れた姉が育ての親。姉の夫が亡くなった時にヴァルジャンは25歳で、それ以降は彼の稼ぎで姉とその7人の子供たちを養った。
・仮出獄[1-2-3]
舞台では仮出獄。仮出獄の許可証をもらっただけで、釈放ではない。
原作では刑期が終わって釈放されている(仮ではない)が、旅券(当時全ての人がもっていて、行く先々で提示する身分証。パスポートが国内でも必要なイメージ)が「前科者の危険人物」用のもの。そのため行く先々で差別されてしまう。
舞台の許可証、原作の旅券のどちらも黄色い紙なのは、当時嫌われていた悪いイメージの色(キリスト教的には裏切りのユダの色でもある)のため。
・ジャベール警部
舞台ではジャベール警部(この時の立場や階級は不明)がバルジャンに仮出獄許可証を与えている。
原作では「バルジャンが収監されていたツーロン徒刑場(フランス南部の軍港都市。トゥーロン表記もあり)で同時期にジャベール警部が看守補(副看守)をしており、少なくとも警部の方ではバルジャンを記憶していた」ことは描写される[1-5-6、1-6-2]
◯舞台の補足(原作準拠)
・バルジャンが課せられた刑の理由
窓ガラスを割るという家屋毀損を経てパンを盗んだので「強盗」扱いで、以前から密猟をしていたことも加味されての5年の刑。密猟は当時のフランスでは「密輸入者と同じことで、強盗にごく近い者」と嫌われていた[1-2-6]
・バルジャンの出自、感情
出自については[1-2-6]。貧しい百姓の家の生まれ。読み書きも教わらずに育って枝切り人として働いていた(読み書き計算は投獄中に、囚人のための学校で学んだ[1-2-7])。冬に仕事がなくて蓄えも収入もなく、姉一家も自身も飢えた末にパンを盗もうとして捕まった。
刑罰や社会への恨みの感情については[1-2-7]。パンを盗んだことは悪だったとは認め、けれどそれに至った経緯(働きたいのに仕事がなかったので稼げず、パンを買えなかった)は社会の責任、犯した罪に対して刑が重すぎたのも社会が悪い、という結論を自ら出して、社会を恨んでいた。
◯時代背景、考察等
・刑務の内容
舞台での表現のガレー船漕ぎは、バルジャン収監前の1748年に船自体が廃止されている。2012年映画の冒頭で囚人たちがドックに引きずり上げているのは帆船。
この時代の徒刑は、実際には陸地で工事などの労役(新井隆広先生のコミカライズでの表現)。
【1815年、仮釈放から司教様に会うまで】
♪仮釈放
◯原作と舞台の違い
・再犯[1-2-13]
舞台ではこの場面で少年からコインを奪ってしまったために、「再犯の凶悪犯」扱いになる。
原作では後述の場面(司教様に救われた後)。
◯舞台の補足(原作準拠)
・募る恨み[1-2-1、1-2-9]
前科者であるために行く先々で追い払われ、恨みを募らせる。
♪司教
◯舞台の補足(原作準拠)
・人々
司教様(ミリエル氏)の生い立ちや人柄[1-1-1~14]、司教様の妹バチスチーヌ嬢、家政婦マグロワール夫人[1-1-1]
・経緯
司教様にもてなされ[1-2-3~5]、夜中に銀器を盗んで逃げ[1-2-10~11]、捕まって司教様の家に連れて来られるが、司教様が「あげた物です(彼は泥棒ではない)」と庇ってくれたので放免される[1-2-12]
◯舞台と原作の違い
・出会いの経緯[1-2-1~2]
舞台では司教様が外に出てきて(or帰ってくる時に見つけて?)バルジャンを招き入れる。
原作ではバルジャンが野宿しようとしているところに通りかかった人から「あの家(司教様のお家)に行ってみなさい、泊めてくれるはず」と教えてもらい、バルジャンが自分から戸を叩く。
【1815年、混乱→改心】
♪バルジャンの独白
◯舞台と原作の違い
・再犯[1-2-13]
司教様の慈愛に混乱して茫然自失し、その中で結果的に少年のお金を奪ってしまう=「再犯の凶悪犯」扱いとなる[1-2-13]。
この相手の少年はサヴォア地方から出稼ぎに来ている煙突掃除で、同じ土地から同じ仕事のために来ている少年たちが多くいた。バルジャンは市長になった街では、この時の少年と同じ境遇の少年たちに親切にしたので、噂が広まってそうした少年たちが街に集まってくるようになった[1-5-4]
◯舞台の補足(原作準拠)
・「我が兄弟」
舞台では司教様がバルジャンへ「我が兄弟」と呼びかけて改悛を促す。
原作でも司教様の言葉で、「私はあなたの名前を知っていますよ、『私の兄弟』という名前を」[1-2-3]と言っており、バルジャンの荒んだ心に響いている。
【1823年、モントルイユ=シュル=メール】
♪一日の終わりに
◯舞台の補足(原作準拠)
・街について
「海(mer)の近くのモントルイユ」の名前のとおり、海(後の場面で出てくる波止場)が近い。
・市長と彼の工場
土地の産業として元々あった黒ガラス玉装身具製造についての革命的な技術を考案して財を成したのがマドレーヌ氏(バルジャンの偽名)[1-5-1~2]。そのおかげで街も周りの地域も潤って豊かになったので、その功績で市長に任命された。
原作の工場は男女の作業場が厳密に分けられていて、舞台の工場長にあたる原作人物(監督)は女性[1-5-9]
・追い出される経緯
舞台では「ファンティーヌへのテナルディエからの手紙」が読みあげられてしまい、コゼットの存在が知られて追い出される。
原作では「ファンティーヌ(字は読めるが自分の名前しか書けない)の手紙」を代筆した人(代書屋)が居酒屋で話してしまったことでバレる。ファンティーヌのことをよく思っていなかった同僚が地腹を切って宿屋のある村モンフェルメイユに行ってコゼットの存在を確かめ、「代書屋の話はほんとだよ!」と言いふらしもした[1-5-8]
原作では表立っての喧嘩はなく、裏でヒソヒソ噂や告げ口があり、監督が独断でファンティーヌを解雇。市長は女工の作業場に入らないようにしており、監督を信頼して任せていたので、相談を受けたり仲裁したりもしない[1-5-8~9]
♪夢やぶれて
・ファンティーヌについて
モントルイユ=シュル=メールの孤児。稼ぐためにパリに出て恋に落ちて娘のコゼットもできるが、捨てられる[1-3-2~9]
♪ラブリィ・レイディ(波止場)
◯舞台の補足(原作準拠)
・ファンティーヌ没落の流れ[1-5-9~10]
髪(原作では金髪)と歯の美しさが「黄金と真珠」として描写されている[1-3-2]が、貧窮する中でそれらを売る。そして「最後のものを売ろう」と売春婦になる
・「ラブリィ・レイディ」らに該当する原作人物は無し
♪ファンティーヌの逮捕
◯舞台の補足(原作準拠)
・ファンティーヌの喧嘩
ファンティーヌが吹っかけられて応戦(過剰防衛ぎみ)していた喧嘩をどこかの時点からの目撃者でもあるジャベール警部が止めて[1-5-12]、ファンティーヌを交番へ連行[1-5-13]
喧嘩相手(市民権ある紳士バマタボア)は言い訳や虚偽の申告もしないで逃げてしまう[1-5-12]が、ジャベール警部は喧嘩相手がバマタボアであることを名前も含めて認識していた[1-5-13]ので、後日事情聴取などするつもりだったかもしれない
・市長の助け舟
牢獄送りになりそうなファンティーヌを交番に後から来たマドレーヌ市長が庇い(喧嘩の目撃者ではないが、見ていた人から話を聞いて「男の方が悪い」と提言)、市長とジャベール警部が口論になるが、最終的に市長がファンティーヌの身柄を引き受けて病院に入れる[1-5-13]
ファンティーヌはマドレーヌ市長のせいで工場を追い出されたと思っていた(実際は現場監督の独断)ので、初めはマドレーヌ市長を攻撃する[1-5-13]
♪馬車の暴走[1-5-6]
◯舞台の補足(原作準拠)
・事故に遭う人
事故に遭ったのは、マドレーヌ氏(バルジャン)の成功を妬んでいたフォーシュルヴァン氏(昔は地位も財産もあったが零落して、今は荷車とロバしか持っていない)。彼が自分の荷車の下敷きになり、マドレーヌ氏(原作では市長任命の前)に救われる。
ジャベール警部はマドレーヌ氏より先にその場にいて、助けるための万力の手配は彼がしたが、万力が届くより先にフォーシュルヴァン氏が圧死しそうになっていた。
マドレーヌ氏がフォーシュルヴァン氏を助けようとした時にジャベール警部が、「そんなことはよほど怪力の人にしかできない。私が昔見たことのある『とある囚人』ならできたかもしれないが…」の旨の言葉をかける→少し迷っていたマドレーヌ氏が迷いを振り切ってフォーシュルヴァン氏を助ける。
♪裁き
◯舞台と原作の違い
ファンティーヌの件で市長に不満を持ったジャベール警部がパリ警視庁に「マドレーヌ市長=凶悪犯ジャン・バルジャン」の旨を告発
→「バルジャンは既に捕まっている(実際は彼と間違われて逮捕されたシャンマチウ)」の返事を受け取り、自身もシャンマチウと面会した上で、「自分はシャンマチウだと言い張るこの男はジャン・バルジャンだ」と警部自身も認めた(誤認)という一連の流れがジャベール警部からバルジャンへの台詞(それらの理由によって自分を免官してほしいという要請)で語られる[1-6-2]
・ジャベール警部不在
原作ではジャベール警部が証言を終えて裁判所を去った後の時点でバルジャンが到着するので、バルジャンが名乗り出る場面にジャベール警部はいない[1-7-10]
◯舞台の補足(原作準拠)
・バルジャンの葛藤
原作内ではそれまで明確に書かれていなかった「マドレーヌ市長=バルジャン」が地の文で説明される[1-7-3]。
名乗り出るかどうかの葛藤、裁判所への道のり(道中でもずっと葛藤している)、裁判での様子についつは[1-7-3~11]。
◯時代背景
・焼印
この時代は囚人に焼印を押さなくなったあと(1789年廃止。バルジャン収監は1796年)なので、バルジャンの胸に焼印はない。
ユゴー先生はそれを知っていたので焼印はない前提で書いてるが、同時代の人(文筆家を含む)でも知らない人が多かったので、「ジャベール警部がマドレーヌ氏を疑ってるならシャツを脱いで焼印の有無を見せて貰えばいいことなのに、不自然だ」という批判が出版当時にあった。
♪ファンティーヌの死
◯舞台の補足(原作準拠)
・やりとり
病床のファンティーヌとバルジャンの会話については[1-8-1~2]。
・ファンティーヌの病
ファンティーヌは逮捕される前から生活苦で病気になっていた[1-5-9]が、病院(マドレーヌ市長の家や工場と同じ敷地にあり、労働者のために彼が建てたもの。修道女が看護する[1-5-7])に入ってからも喧嘩の際に雪を胸元に押し込まれたことの影響で悪化していた[1-6-1]
♪対決
◯舞台と原作の違い
・警部の到着
舞台ではファンティーヌが息を引き取った後に警部登場。
原作ではファンティーヌが亡くなる前にジャベール警部が到着してバルジャンを糾弾し、そのショックもあってファンティーヌが亡くなる[1-8-3~4]
・ジャベール警部について
ジャベール警部の出自と、それがあって形成された彼の価値観[1-5-5]。
彼は獄中でカード占い師の女性が産んだ子供で、その夫も徒刑囚。出自のために自分が生まれつき社会から疎外されていて社会の一員にはなれないことを成長の中で理解し、社会の外にいる者にあるのは「社会を攻撃する」「社会を護る」のどちらかの道しかないと考えて後者を選んだ。「反逆に対する憎悪」があり、一度法を犯した者は更生しないと確信している。
看守と警官は別組織の人員なのだが、どんな経緯で異動したのかは原作を読んでもわからない。ユゴー先生に聞きたい。
【同年、モンフェルメイユ】
♪幼いコゼット
◯舞台の補足(原作準拠)
・リトルコゼット
テナルディエ夫妻のもとでこき使われる様子は[1-4-3、2-3-1~8]。
預けられたのは、テナルディエ夫人が娘たちを溺愛しているのを見て、パリからモントルイユへコゼットを連れて移動中だったファンティーヌが信頼してしまったため[1-4-1]。
実際にはテナルディエ夫人は娘たちを溺愛するあまりに、コゼットの呼吸の分だけ自分の娘たちの空気が減るようで忌々しいと思う人だった[1-4-3]。
・リトルエポニーヌ
エポニーヌ(とその妹アゼルマ)は母の態度を模倣してコゼットを蔑んでいる[1-4-3]。母の溺愛を受けて、田舎町のモンフェフメイユにいても街娘のようにおしゃれで清潔な様子[2-3-8]。
・テナルディエ家の息子
テナルディエ夫人は自分が産んだ男の子(姉妹の弟=ガブローシュ)を育てはするが愛情はなく、全く可愛がらない[2-3-1]
・森の中での水汲み
コゼットが怖がっている仕事。昼間は水売りの老人から買うことができるが、すでに彼が仕事を終えている時間だったので、コゼットが行くしかない。
コゼットは水汲みに行きたくないので嘘をつく(「俺の馬に水を飲ませてないだろう」という宿泊客に「あげました、たくさん飲んでました!」)が、結局行かされる[2-3-1]
♪宿屋の主人の歌
・テナルディエと宿屋[1-3-2、2-3-2]
ほとんどだれにでも丁寧な態度で、「一つの哲学」を持っていると自称。
♪取引〜裏切りのワルツ
◯舞台の補足(原作準拠)
・森の中での出会い
水汲みに出されたコゼットと森の中で出会い、
「そこに泊まろう」と一緒に宿屋へ行くバルジャン[2-3-5~7]
・テナルディエとバルジャンの取引[2-3-9]
コゼットと夫人は就寝していて同席しない
・人形
舞台ではバルジャンはあらかじめコゼットのために人形を用意していた様子に見える(買いに行く暇がない流れ)。
原作でコゼットのもらう人形は、エポニーヌの人形が羨ましくてつい触ってしまい叱られたコゼットのために、バルジャンが一旦宿屋の外に出ていって村内で買える中で一番高価な人形を買ってきて渡したもの。迎えにくる前から準備していたものではない[2-3-8]
【1832年、パリ】
♪乞食たち
◯舞台の補足(原作準拠)
・ガブローシュとは
テナルディエ家の長男で、エポニーヌ(・アゼルマ)の弟。11~12歳。姉たちとは違い全く愛されず、放ったらかされ育ち浮浪児となった。[3-1-13]
・テナルディエ一家
テナルディエは職につかず、金持ちに無心の手紙を送って金を得ることで生活していた[3-8-2~3]
ゴルボー屋敷のひどいあばら家で生活をしている[3-8-6]
マリウスが代わりに家賃を払ってあげるのが最初の接点だった[3-5-5]。
・ラマルク将軍とは
実在の人物。ナポレオン政権下で活躍し、ナポレオン帝政のあと王政の復興に反対し精力的に活動、38歳のとき国会議員に選出され反体制政治家として民衆からも人気を博した。1832年6月1日、パリで流行っていたコレラにより病死。[4-10-3]
・マリウスとは
マリウス・ポンメルシー。裕福な家庭に生まれ、王党派の祖父に育てられる。父はナポレオンに仕えた大佐で、マリウスを愛していたものの義父との政治上の対立から「お前が孫に会えば相続権を孫に渡さない」と脅され、息子に父親には捨てられた、と誤解されたまま、再会することなく亡くなった。
マリウスは大きくなってから父親の偉業を知り、ボナパルティストになって祖父の家を飛び出す。[ここまで4-2、4-3]
だが、ABC友の会のメンバーと接する中で意見が変わっていく[3-1-5]。
実はワーテルローの戦いで、瀕死だったポンメルシー大佐を助けたのが、戦場跡で兵士の身につけているものを盗んで回っていたテナルディエだった。遺書に「テナルディエに親切にするように」と残したことがミュージカルでの♪強奪の場面に大きく関わってくる。
◯時代背景、考察など
・ガブローシュとエポニーヌ
お互い関心がなかっただろう。だが…→恵みの雨
♪強奪
◯舞台と原作の違い
・場面
路上ではなく建物(ゴルボー屋敷)での事件で、破産してパリに移っていたテナルディエ一家のほかに、家出中のマリウスもそこに住んでいる。
・事件の経緯
マリウスが隣人テナルディエ(と彼が共謀する悪人集団パトロン・ミネット[3-7-3~4])に慈善家(バルジャン)とその娘(コゼット。この場面で出会うのではなく、共によく過ごしていた公園で見かけてお互いに意識していた[3-6-2~9]。♪強奪 場面の少し前に、マリウスが家まで尾行してきたのを不審に思ったバルジャンがコゼットを連れて引っ越してしまったので、お互いを見失っていた[3-6-9])が獲物として狙われたことを知ったマリウスは警察署に相談する。
不在だった警察部長の代理としてその相談を受けたのがジャベール警部[3-8-14]。舞台でも ♪ジャベールの介入 の「見ていた者は」あたりでマリウスが「僕見てました!」みたいにジャベール警部に近寄っていく(歌の途中なのでマリウスの発言はない)。
マリウスがバリケードで使う拳銃は警官隊突入の合図のためにと、この時にジャベール警部が貸したもの[5-1-19]。マリウスはそれを返さずに引っ越して行方をくらましてしまう(借りパク)。
♪ジャベールの介入[3-8-20-21]
◯舞台と原作の違い
・捕まる面々
「被害者なしなら〜」にならず、見張り役のエポニーヌ(とその妹アゼルマ[3-8-21])も含めて逮捕[4-2-2]。モンパルナスは持ち場を離れて(サボって)いたので捕まらなかった[4-2-2]。舞台でもモンパルナスは一人だけ袖に逃げて物陰から様子を見ている。
エポニーヌとアゼルマは「善悪の分別のない子供」として釈放され[4-2-4]、テナルディエとパトロン・ミネット達は捕まらなかったモンパルナス(と手伝いのガブローシュ)の手引きを得て脱獄する[4-6-3]。
テナルディエ夫人は男性陣と違う監獄に居たからか脱獄できず、獄中死したことが後の文で語られる。
◯舞台の補足(原作準拠)
・ジャベール警部のパリへの異動[2-5-10]
異動はざっくり言うとバルジャンのせい。「バルジャンを追いかけたくて本人が希望した」わけではない。
原作のバルジャンはファンティーヌの死の床で大人しく捕まり、その晩に脱走する。警察はバルジャンが他の多くの犯罪者と同様にパリに向かったと推測し、ジャベール警部もその捜査の助けのためにパリに呼ばれる。この時点では正式な異動ではなく一時的な応援要請。
パリでジャベール警部がめざましい働きをしたために、その熱心さと有能さが警視総監秘書シャブイエ氏(かねてからジャベール警部に目をかけていた人物として、前にも名前が出ている[1-5-5])の目に留まり、彼がジャベール警部をパリ警察に配置する(正式な異動)。
・ジャベール警部のバルジャン逮捕への姿勢[2-5-10]
舞台のような「逃げたのはがジャン・バルジャン」との確証はない。「逃げてしまった紳士が一番の大物だったに違いない」と考えている[3-8-21]
ジャベール警部はパリでは、既に捕まってツーロンに戻されたバルジャンのことは忘れて仕事に勤しんでいる。バルジャンについての新聞記事で思い出しはするが、「海に落ちて遺体も上がらずに死んだ」(実際には泳いで逃げていて、その後にコゼットを迎えに行った)という死亡記事だったのでスルー。
モンフェルメイユ(テナルディエの宿屋のある村)から上がった「幼児誘拐(バルジャンがコゼットを連れて姿をくらました件)」の報告書を読んで疑惑を持ち、テナルディエにも話を聞きに行く。だが後ろ暗いテナルディエが話したなんでもなさそうな作り話で、この時も一旦は疑いを捨てた。
その後、バルジャンが「施しをする乞食」としてパリで噂になっているのを聞きとがめ、自ら乞食の格好をして顔を見ようとしたり、彼の家のある「ゴルボー屋敷(部屋ごとに住んでいる集合住宅)」内の空き部屋を借りて立ち聞きしようとしたり、それに感づいて逃げ出したバルジャンを待ち受けて部下たちと尾行もするが、すんでのところで逃げられてしまう。
このゴルボー屋敷は原作内で2回登場し、上記場面は ♪強奪 とは異なる場面。
♪星よ
◯舞台の補足(原作準拠)
・直接該当の場面はない。ジャベール警部の考え方や価値観は[1-5-5、1-6-2、1-8-4]。
・悪魔(Lucifer)
舞台の歌詞にある「悪魔(英語歌詞では堕天使ルシファー)」を打ち負かした大天使ミカエルにジャベール警部がなぞらえられている地の文(ユゴー先生の比喩で、ジャベール警部の台詞ではない[1-8-4])が原作にある。
・ジャベール警部の信仰心[5-4(-節なし)]
原作での彼はカトリック教会への深い敬意はあるが、社会の威厳ある断片としての尊重だと説明されている。(慈悲や慈愛ではなく、)秩序を信条・教義として歩んできた人物。
上官(自分の所属の最高位にある存在)としては警視総監だけを念頭に置いていて、「神という他の上官」について考えたことが自殺場面までなかった。
♪エポニーヌの使い走り
◯舞台の補足(原作準拠)
・エポニーヌの恋とは
最初の交流はエポニーヌが父に頼まれてマリウスに金の無心に来たこと。エポニーヌはこれより前から彼に好意を持っていたことが述べられている[3-8-4]
・エポニーヌに頼んだ箇所
テナルディエ一家をバルジャンとコゼットが訪ねたことで、マリウスはコゼットを再び見ることができたものの、追跡に失敗。悲しむマリウスを見たエポニーヌは「何かわたしにできることはない?わたしを使ってよ」と言い、マリウスはコゼットの家を探し当ててもらうことを思いつく。
「それであたしに何をくれるの。」
「何でも望みどおりのものを。」
「あたしの望みどおりのものを?」
「ああ。」
「ではきっとさがし出してくるわ。」
[3-8-11]
♪ABCカフェ/赤と黒
◯原作と舞台の違い
・マリウスのABC友の会での立ち位置
ボナパルティストだったマリウスに深く動揺を与えた前述のABC友の会とのやりとりから、迷いや孤独を感じカフェミュザンには行かなくなっていた(1827~1830年のどこか)。次にマリウスがABC友の会の皆と再会するのは六月暴動の最中である。[3-1-5]
◯舞台の補足(原作準拠)
・メンバーについて詳しくは→ABC友の会・メンバー紹介 - Privatter
・アンジョルラスとグランテール
グランテールは懐疑主義者にも関わらず、アンジョルラスを賛美し、愛し、尊んでいた。アンジョルラスの清い健全な確固な正直な一徹な誠実な性質に、まったく魅せられてしまったのだ。
対してアンジョルラスはグランテールを軽蔑し、いやしんでいたが、また同時に憐れんでもいた。
[3-4-1]
・ラマルクが死んだ後
6月5日、ラマルクの葬列に大勢の市民が参列した。貧困層にも人気のあったラマルク将軍の死は、民衆からは損失と恐れられ、政府からは何か事件のきっかけになると恐れられて、厳戒態勢が敷かれたが…[4-9-3]
♪民衆の歌
◯舞台の補足(原作準拠)
・フイイーとアンジョルラス
フイイーは孤児であり「母がいなかったので、祖国の事を考えていた。祖国を持たぬ人間の地上にいることを欲しなかった。」[3-4-1]ということを反映し、ソロパートにこのような歌詞が振られている。
また、アンジョルラスに「僕は君を尊敬している」と言わしめるほどの人物で、アンジョルラスの演技にもそれが現れている。[5-1-5]
♪プリュメ街
◯舞台と原作の違い
・別にバルジャンが本物のパパとは思ってない
バルジャンはコゼットに母親は死んだのだ、と伝えている。[4-3-4]
◯舞台の補足(原作準拠)
・コゼットの性質、パリでの暮らし
バルジャンとコゼットは修道院を出た後、ジャベールへの恐れからパリにプリュメ街の家以外に2つ家を持ち転々と暮らしていたと記述があるが、プリュメ街の家で物語は進んでいく。[4-3-1]
・エポニーヌが連れてきた箇所
1832年5月頃、出所したエポニーヌがマリウスにバルジャンとコゼットの家を見つけたと知らせる。♪エポニーヌの使い走りでのやりとりがこちらに一部回ってきている。
彼女は指を開いて、その貨幣を地面に落としてしまった。そして暗い顔つきをして彼を見ながら言った。
「あなたのお金なんか欲しいんじゃないの。」
[4-2-4]
♪心は愛に溢れて
◯舞台と原作の違い
・いや、さすがに1夜で結婚決めてないから
エポニーヌに案内してもらい住所を知ったマリウスは、家に不法侵入して(庭の柵の格子が古くて外れていた[4-8-4])、庭のベンチに手紙を残す。[4-5-2~3]次の日の夜、コゼットとマリウスは庭で再会し、それから毎晩、六月暴動までの1ヶ月ほど、マリウスが訪ねてきて庭で逢瀬を重ねたのだった。
「あなたのお名は?」
「マリユスです。」と彼は言った。「そしてあなたは?」
「コゼットといいますの。」
[4-5-6]
6月3日の夜、エポニーヌはそんなマリウスの跡をつけ、マリウスがコゼットと会っていることを知る。彼女は柵の土台の上に腰をおろし、1時間以上も考えにふけっていた。その時…[4-8-4]
♪プリュメ街の襲撃
◯舞台と原作の違い
・パトロンミネットのメンツ違う
パトロンミネットには含まれないが、この時襲撃に来た中にいたブリジョンが、ミュージカル版でパトロンミネットにされている。
・マリコゼエポは対面しない
マリウスとコゼットは、この家にパトロンミネットが来たこともエポニーヌが守ってくれたことも知らないし、お互い顔を合わせていない。エポニーヌが叫んでないからコゼットも嘘をついたりする場面はない。 ただ、コゼットとエポニーヌが再会する場面が後にある。(→2幕♪恵みの雨参照)
・バルジャンの引っ越した理由が違う
プリュメ街の襲撃の後、バルジャンはコゼットとイギリスに引っ越すことにした。[4-8-6]理由としてはテナルディエが付近でうろついていたこと、パリがとても不安定な状態だったことである(=ジャベールに見つかったと勘違いしたわけではない)。また、そのようなことを考えていた矢先、誰か(エポニーヌ)が「引っ越せ」と書いた紙を土手に座っていたバルジャンに投げ入れたことでその決心を強くした。[4-9-1]マリウスはコゼットをパリに留めるために、祖父にコゼットと結婚することの許可をもらいに行く。身分も財産があるかも分からない女と結婚することに反対し、またそうでないなら「情婦にするといい」と告げられ、マリウスを激昂させたと同時に彼の最後の望みは断ち切られた。[4-8-7]
◯舞台の補足(原作準拠)
・原作該当箇所
男は、色の青いひとりの娘が自分の前に立ってるのを見た。
(中略)
「ごく貧乏な人たちよ。一スーのお金もないきたない家だよ。」
「ぐずぐず言うな!」とテナルディエは叫んだ。
(中略)
すると彼女は、鉄門の前に立ちふさがり、すっかり身ごしらえして夜のために悪魔のような相好に見える六人の盗賊らの方へ顔を向け、しっかりした低い声で言った。
「いいわ、入れやしない。」
(中略)
「あたしが一声上げさえすりゃあ、人はどしどしやって来る。お前さんたちは六人だが、あたしの方には世界中がついてるんだ。」
(中略、エポニーヌは歌いはしたが叫んではいない)
それで彼らは立ち去っていった。
[4-8-4]
♪ワンデイモア
◯舞台と原作の違い
・テナルディエが何をしてたとかは無い
テナルディエはプリュメ街の襲撃の後、下水道まで出番がない。また、マダムテナルディエは原作の♪強盗にあたるゴルボー屋敷での事件で逮捕され、そのまま監獄で亡くなっている。
◯舞台の補足(原作準拠)
・マリウス
マリウスが全ての希望を失った翌朝がラマルク将軍の葬儀であった。クールフェラックがマリウスを誘うも彼は上の空で一日中フラフラとしていた。夜の9時、コゼットの家に行くももう彼らは引っ越した後であった(ロマルメ通り七番地のアパート)。もはや死ぬしかない、と絶望したマリウスに誰かが叫んだ。
「マリユスさん!」
彼は身を起こした。
「ええ?」と彼は言った。
「マリユスさん、あなたそこにいるの?」
「ええ。」
「マリユスさん、」とその声はまた言った、「お友だちがみなあなたを、シャンヴルリー街の防寨で待っています。」
その声は彼のまったく知らないものではなかった。何だかエポニーヌの荒いつぶれた声に似寄っていた。
[4-9-2]
【担当部分:執筆者(Xアカウント)】
・「囚人の歌」〜「裏切りのワルツ」、「強奪」〜「星よ」:るり(狭倉瑠璃 @140_midaregami)
・「乞食たち」、「エポニーヌの使い走り」〜「ワン・デイ・モア」:Patricia(@ppp_pwp )
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