1巻の警部殿(作成中)
・警部殿の出自についてのフランス語原著の記述
「ジプシー(ロマ)の子」と言われることがありますが、出典がよくわからない。
「ジプシー」との言葉は原著では使っていない。あるとしたら和訳した方々のうちの誰かの意訳なのかもしれない。
Javert était né dans une prison d'une tireuse de cartes dont le mari était aux galéres.
ジャベールは夫がギャレー船にいたカード占い師の独房で生まれた。
tireuse de cartes トランプ占い師
占い師はほとんど女性なので単語も女性形
tireuse で決まっているとのこと。男性形 tireur だと射撃手の意味になる。
tirer les cartes トランプ占いをする
prison 刑務所・監獄のほか、独房という意味もある。
ロマの人々は手相占いが主だが、「流浪の民の幻想的なイメージ」としてカード占いのイメージが広がったという説もあるらしい。
・この純粋無垢な探偵を(1-6-2)
警部殿の免職願いの場面での、彼の人柄を表す記述の一つ。
原文の「探偵」にあたる語彙はmouchardで、「密告者」「警察のスパイ(密偵)」といった意味。青空文庫での「探偵」は意訳に近いかも。
「世界初の探偵」フランソワ・ヴィドック(1775〜1857年)は、犯罪者から警察の密偵を経て国家警察パリ地区犯罪捜査局の初代局長になり、のちに個人の探偵事務所を開いた。彼はバルジャンと警部殿の両者の着想元となったとされる人物。
蛇足だが、ユゴー先生と同時代の作家バルザックも、このヴィドックをモデルにしたとされる人物「ヴォートラン」を作中に登場させている。
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